こわいくらいに白い月には黒い薄雲がかかっていて、まるで水底に真珠を横たえる湖に墨汁を一滴垂らしたみたいなその景色を見ていたら、鼻の奥がつんとして鈴の音のような虫の声が聞こえた。
伝えたい言葉は半分も口にできないし、口から離れた言葉は自分の意図しない方向へ進んでいく、そんなことを繰り返している間に様々な人に置き去りにされて、私はこれ見よがしに「さびしい」なんて呟く。
いい加減変わらなくちゃとは思うけど、一方どこかではこんな自分が可愛くて可哀想で仕方ないんだろうとも思う。
ため息をついたら夜風のにおいがしたので、多くを望みすぎないように、いつも潔く凛としていられるように、小さくそう決意した。
紅茶に浮かべた檸檬とこのさびしさはひどくよく似ている。