失われる感受性。 どんなにいい音楽を聴いても、どんなにいい映画を観ても、どんなにいい本を読んでも、 わたしはもうどこへも行けない。 窮屈な世界での限界なんて、たかが知れてる。 北から、寒さがさびしさを連れてやってくる。 わたしの思う「幸せ」と世…

ギターと歌声だけの音楽をひたすら聴いていた。 雨の夜だった。 わたしという人間はいつだって大事なものをすぐに失くす。 目に見えるものも、見えないものも。 神さまはいつだってわたしにはいじわるだ。 理由もなく誰も彼もに優しくしたくなる瞬間があるよ…

たぶんやっぱり他人を深く愛せないんだと知った春の終わりに、意味のないめくばせに救われた。 「それはまだきみがそういう人に出会ってないだけ」は、なんの気休めにもならない、ただその瞬間に一緒にいてほしいだけだよ、ただその瞬間に頭を撫ぜてほしいだ…

くだらないことをこぼすわたしに掛けられた言葉はあまりにも優しくて、涙が出るほどいとしく思った。 冬のはじまりの寒い夜、海のそばの小さな建物で初めて会ったわたしたちは、今では手をつないで街を歩いている。 そういえば、あの日もわたしはお気に入り…

「夢見ないことを 夢に見る。睡りの時間に 目覚め のしかかる沈黙の間に 睡る。夏の約束を 守る それを破ることによって。」

恋人と別れて一年半、いくらかの男の人に対して肯定的な感情を覚えたけれど、それでもあと一歩踏み込めなかったその理由は、自分でも分かっている。 「終わりたくないから始めない」 別れが怖くて誰とも関わろうとしないのは、交通事故が怖くて外に出ないこ…

様々なことにすっかりくたびれたので眠ることに逃避したら早く起きれたので、朝、ぶどうを幾粒かとヨーグルトをひとすくい優雅にとりこんで優雅な気分で優雅に駅についたらば財布を忘れたことに気付いて一度家に戻って再び駅へ到着すると乗らなければならな…

あらゆることに押し潰されて泣きそうな夜に、兄の様に慕う二つ年上の男の子にさらいに来てもらった。 多摩川までドライブをして、花火をして、芝生に寝転がって、星のない夜空を見上げた。 この数ヶ月ふたりでずっと悩み続けている出口の見えない話は、私を…

こわいくらいに白い月には黒い薄雲がかかっていて、まるで水底に真珠を横たえる湖に墨汁を一滴垂らしたみたいなその景色を見ていたら、鼻の奥がつんとして鈴の音のような虫の声が聞こえた。 伝えたい言葉は半分も口にできないし、口から離れた言葉は自分の意…

たとえばわたしに「 」という価値があったとして、たとえばそれが簡単に手に入ったとして、たとえばその手段が道徳的に悪とされていて、それでも別に私が平気なら大丈夫だとそう思っていたけれど、もしかしたら私の知らないところで私の知らないうちに私の質…

漸う気持ちの整理がついて、幾分か諦めも抱けて、このまま穏やかに暮らせたらと思うけれど、タイミングというものは悪い様につくられているみたいで、恐らく近々わたしは再び揺れることになるのだろう。 あの映画のあの美しい女の様に、「愛しているふりだけ…

さよなら。 さよならわたしの太陽。 今年もこの日に泣きたくなっているわたしを忘れないで。 年々少女性を失って、穢くなってゆくわたしを。 最後の夕暮れ。 神様は、わたしの好きな色で世界を染めた。 年を重ねることをやめられたら、どれだけ美しいだろう。

私はもう、少女ではないのに。 誕生日が巡り巡ったって一人歩きで成長していくのは体という容器と年齢という括りばかり、精神は未だに十四の頃のまま球体世界に籠もっている。 失われた少女性をひたすら求め、果ては胎内回帰。 誕生日がきたって何が変わるわ…

いくつものいやな予感が、現実となっている。 最近のうんざりするほど退屈なやり取りは、全てこのためにあったのか。 「他の子を好きなただの友達だったらよかったのにって、友達だったらよかったのにって、そう思ったんだ」。 きっと私を大切にしてくれるだ…

晴天、風強く。 植物の胞子かなにかが、太陽光を受けて黄色く光りながら浮遊していて。 会いたくもないのに鳴り止まない携帯。 高木正勝の音楽のむこうから、子供の声が聴こえる。 大切な人達は、みんな誰かのものになってしまった。 私には何もないの。か。…

七夕は、七月七日という日は、私にとってずっと切ない日であったけれど、きっと今年からは忌むべき日になるのだろう。 見つからないのか。 もう二度と会えないのか。 そもそも生きているのか。 いい加減捨てられたという事実を受け入れなきゃいけないのに、…

「君は、人は裏切るって言ったけど、私は君のことがとても好きなので、『絶対』って言葉の重みは知ってるから易々と使いたくないけれど、『もしも』とか『きっと』っていう温い言葉が許されるなら、ずっと君のことが好きで私は先天的にあなたのことを裏切ら…

夜と、暗闇に光る目と、消えゆく声と、指の仕組みと、温度と。 私たちはただお互いがお互いにお互いの孤独をぶつけているだけなのかな。 だけどそれにしては信じたくなるものが多すぎる。 見えない何か、ふたりを結ぶものだとか。 少しずつ全てが手遅れにな…

悪いことをたくさんした一日。 この天罰は明日下るんだなって思って、夜の新宿にて神様の存在に考えた。 神様。 わたしは十二年間その存在を洗脳されて盲目的に信じ込まされてきたけれど、神様なんて本当にいるんだろうか。 人間は海にいた微生物から進化し…

眠りすぎた倦怠感の中で、直前まで見ていた白い夢を反芻する。 私はこれ以上求めすぎちゃいけないのかもしれない。 求めすぎるから傷つけてしまうし、裏切られた気になってしまう。 そんなことはずっと分かっているのに。

地下鉄の中で、向かいに座る外国人の夫婦が眠っていた。 無防備に四肢を投げ出して眠る女性のお腹は、こんもりと丸かった。 あの中に新しい生命があって、いつか思春期を迎えて、大人になって、そうしてそいつもいつかは結婚して子供を産むのかなと思ったら…

雨の日に窓を開けて眠りへと向かうのが好き。 そもそも水音が好きな私は、部屋の内側でブランケットと過ごす雨の日がいっとうの贅沢だと思っているもの。 神様。 この夜は、いろんなことを思い出すための夜ね。 あの夜のことを。 あの朝のことを。 公園での…

もう本当に辛いんです。 なんでそんなに圧迫するんですか。 なんでそんなに追い詰めるんですか。 やめてやめてやめてください。 私が病院通ってることだって知ってるでしょ。 私が手首切ってることだって知ってるでしょ。 私が過食嘔吐してることだって知っ…

雨上がりの街の中、昔住んでいた家まで歩いた。 あの坂道。あの家。あのポスト。あの川。あの犬。 懐かしい風景を通り過ぎながら制服に身を包んで歩いた小路を抜けると、高台に建つあの家があった。 家の前の道はきれいに舗装されて貧相な木がいくつも植えら…

寝静まるであろう時間まで街を放浪したり、わざと電車を見送ったり、降りるべき駅で降りなかったり、こんなことがしたいんじゃない。 足音。視線。溜め息。罵声。暗闇。思い出。音楽。 逃げたい。 あとどれくらいすれば。

「私はちゃんとしてるのに、母親の教育が悪いからって結局私が言われるのよ」。 私がだめ人間なのは君のせいじゃないよって笑って言いたかったけど、 その場に笑顔はそぐわない気がして、とりあえず泣いてみた。 生まれてきてごめんなさいね。

母親と兄ちゃんが喋っている空間にいると押し潰されそうで息苦しくなる。 家族として当然の様に話す二人、何ともない話をそれはもう自然に話す二人の間にいる私は、黙っていて、喋れなくて、まるで私だけ家族じゃないみたいだ。 私の知らない二人。私の知ら…

とある写真を見ていたら、いろんな事を思い出した。 馬鹿にするなよって、小さく呟いたけど、あの人達は私が今そう思っていることなんて、これっぽっちも知らない。 知る由もない。 認識は行為に移さない限り世界を変えられなくて、だけどだからこそ認識は貴…

わたしは錯覚を起こしてしまいそうで、或いはもう既に起こしているような気がして、少なくともそれに近いものの予感を孕む何かの気配を感じていて、泣きたいくらい怖いよ。 やめて乱さないでという思いの隙間から、子供のわたしが手を伸ばしている。