バイトにはまた遅刻だけどやわらかな日差しが世界に溢れてるのを小田急線の汚い窓を通して見ていたらどうでもよくなったし鎌倉あたりに逃げ出したくなった。
駅のポスターに書かれた「ロマンスカー」という文字を見遣って、ロマンスカーはただ「ロマンスカー」なのではなくて「ロマンス」な「カー」なのね、だとしたらロマンスなカーは箱根にどんなロマンスを運ぶのかしらん。
就職活動の合間、行き先に晴海埠頭と表示されたバスを見て吸い込まれるように飛び乗ったあの時みたいに、スーツ姿でひとり静かな海を見に行ったあの時みたいに、今だって全部捨て去って振り切って遠くどこかへ逃げ出したいけど、わたしには仕事があって決められた時間があって、だから放浪カモメを押し殺して都会への歩を進めるの。
さよなら鎌倉にいたかもしれないわたしの運命の人。
さよなら箱根にいたかもしれないわたしの運命の人。