それはわたしが話し下手だからというのもあるのだろう。
だけどあの金色の夜に現れた赤いドレスの二次元のひとのことを、あの楽しさをおもしろさを壮大さを誰かに伝えようとしても、笑顔の粒だけがわたしの心の中に残ってしまって、からっぽな言葉だけが口からするすると逃げてゆく。
いつだってそうだ。
思い出は口にした途端きらめきを失う。
思い出の中にいっしょにいたひとは、みんなどんどん先へ行ってしまう。
誰かを思い出の中に呼ぼうとしても、うまくそうすることができない。
それならもう、ひっそりと思い出を閉じ込めて、たまに蓋をひらいてみたりして、誰にもひみつの思い出の中でひとりくすくす笑いながら生きていくしかないのかな。
誰かといっしょにそこにいることはできないのかな。